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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

「秀吉か。いつ見えた」

「着いたばかりでございます。だいぶ進みましたな、ご工事も」

「長浜はどうだ。住みよいか」

「勿体ないほどでございます」

「母も城へよび迎えたそうだな。そちは見かけによらぬ孝行者だそうだ」

「田舎者ですから、長浜へ移りましてからは、ただもう吃驚しております。さぞ歓ぶかと思いましたが、さほどでもなく、少し迷惑そうな顔して、暮しておりまする。その老母が栽りました畑の物を少々ばかりお土産に持って参りました」

「畑の物を」

「はい、百姓の母が、百姓を怠ると、体がすぐれぬと申しまして、長浜へ移りまして後も、城内の畑を耕し、いろいろな物を栽っております」

「奇特なことだ。ありがたく貰おう。どれ見せい」

「いや、ご普請場へお渡りとのことに、それは桑実寺のお台所へあずけて参りました。……時に」

と、あらためて、信長の顔を仰いで、

「ちと、おはなしがございますが……」

「そうか」と、意を酌んで、信長もすぐ、左右の小姓たちへ、

「階下へ行け」

と、人払いを命じた。

「――筑前。何か」

「中国の黒田官兵衛のことに就いてですが」

「ム。あれか」

「困っておるようです」

「何といたして?」