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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一五

一五

嘲り、蔑み、憎み、呪い、目を剥き出し、歯を現し、片手の指を、獲物を掴もうとするけだもののように鉤なりに、曲げ、片手に、浜川平之進の血しおで染んだ短刀を握り締めた、長崎屋、相手に気取られようが、気取られまいが、そんなことは少しもかまわず、今は、大ごえに、ゲラゲラと、不気味な笑いをひびかせるのだ。

「黄金のためには、どんな友だちに、どんな煮湯を呑まそうと平気な広海屋――黄金の力さえあれば、人間、買うことは、何でも出来ると、高を括っている広海屋――へん、どれほど、黄金を積んだとて、可愛い子はかえらぬぞ! この長崎屋、ちゃんと、奪衣婆の手に渡してしまったのじゃ! ふ、ふ、ふ、あの子が生れたときには、有頂天によろこんで、これで、広海屋万代だなぞと、大盤ぶるまいをしおッたな! あれからたったまる一年、へ、へ、へ、もうそなたに子なし、もとの杢阿弥――思い知ったか、この長崎屋、仇をうければ、仇をかえさずには置かぬ男じゃぞ!」

広海屋夫婦の、狂態が、つのればつのるほど、いよいよ面白さ、うれしさ、小気味よさに堪えかねて来る長崎屋、とうとう、いつか築山の蔭から、すッかりすがたをあらわしてしまったのは愚か、血ぬられた短刀を振りまわしながら、だんだんに近づいてゆく。