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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

「坊主!」

と、振りかぶったのが、出刃庖丁――だが、駄目だ。

大坊主は、丑のからだを楯にして、為の方へ突きつけるように、

「ふ、ふ、ふ、この友だちが斬りてえか――さあ、斬って見せろ! これ、斬って見せねえか! おい、雲! 斬れッたら、こいつを斬れ! 斬らねえと、貴さまの素ッ首を引き抜くぞ!」

あべこべに、為は脅かされて、振り上げた出刃庖丁の下しようもない。

そのありさまを冷たく笑って、欠け歯をむき出して、茶碗ざけを、ぐびりぐびりやっていたお三婆――ニヤリとして、

「これ、島抜けの! 許しておやりよ、そいつらは、それでなかなか気のいいやっこさん達なんだよ――丑さん、為さん、あやまっておしまいよ。不向きな相手だ」

二〇

――島抜けの――

と、お三婆は、呼びかけた。

では、今、のれん口からあらわれて、雲助二人を突きのけ、ひねり仆した、この巨大漢、いがぐり坊主――鉄心庵の、淋しい夜ふけ、闇太郎から預かった、女賊お初にたぶらかされ、盛りつぶされて取りにがした、かの、法印であるに相違ないのだ。

そうだ――まぎれもなく、これぞ、島抜け法印だった。いまさらおのが愚かさ、淫らさのために打ち負かされたことを恥じ、もがいて、どうしても屹度、おのが手に、お初を生きながら取りもどし、闇太郎の前に引きずってゆかねばと、誓いの手紙をのこし