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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

金網行灯がぼんやり照らしている、脇玄関で、彼等が、こんなことをいい合っている頃、土部三斎は、奥まった蔵座敷で、黒塗り朱塗り、堆朱彫、桐柾――その他さまざまの、什器を入れた箱類を、前後左右に置き並べて坐っていた。

頭こそ丸めて、斎号をば名乗って居れ、六十に手が届いているのに、赭ら顔。眉も黒く、目は細く鋭く、ぶ厚い唇も、つやつやして、でっぷりと肉づいて、憎らしいまでの壮々しさが手足の先まで溢れているような老人だ。黒の十徳に、黄八丈の着付け、紫綸子の厚い褥の上に坐って、左手の掌に、処女の血のように真赤に透き通る、径五分程の、燦めく珠玉を乗せて、明るい灯火にかざすように、ためつ、すがめつ、眺め入っているのであった。

若侍が、襖の外まで来て、うずくまると、その気配に、慌てて、珠玉を、手の中に握り匿したが、

「誰じゃ? 何用じゃ?」

「わたくしでござります。御蔵前、門倉平馬、町人体の若者一人召し連れ、折り入って御意得たいと申し、ただ今、脇玄関まで罷り出て居ります」

「何に? 平馬が?」

と、老人は呟いて、

「かかる夜陰に、何の所存でまいったか、――会うてとらせる。