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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

八

だが、浪路の、こうした心の変化の奥底の秘密を、いつかすっかり見抜いていたのが、長崎屋三郎兵衛であった。

――ふうむ、悧巧なようでも、やっぱし娘ッ子だなあ。上方役者にぞっこんまいッてしまったらしいぞ。ふ、ふ、ふ、もっとも公方のしなび切った肌ばかりじゃあ、物足りないだろうでなあ。

冷たく、独り笑って、やがて真面目な目つきになって、何か考えてみはじめるのだった。

八

三郎兵衛はもう舞台には、注意を払わなくなった。

――この娘に、思うようなことをさせてやって置けば、わしの日頃の望みは、千日かかるのが、十日で成就するわけだ。こんな折がなかなか二度とあるものではないぞ。

この猛悪な貪慾漢は、主家を陥れて、現在の暴富を積んだにもかかわらず、なおこの上の希望として物産用達の御用を、柳営から受けたいのだった。

この大望は、三斎父子を背景としている彼にも、なかなかむずかしいものに思われた。幕府にも手堅い組織があって、私情、自愛では、突破し難い鉄柵が存在していた。

だが、そのような非望者に取っての大障害も、道を以てすればたやすく破壊し得るであろう――三郎兵衛は、日ごろから、浪路を、その材料としてえらんではいた。