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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
と、いって、雪之丞に目をうつして、
「雪之丞、そなた、これなる者を見覚えているであろうな?」
雪之丞の、美しく優しい瞳が、まともに門倉平馬の上にそそがれた。と、彼のいくらか酔いを帯びて、まるで桜の花びらのように思える面上に、さもなつかしげに笑みが漲った。
「ま、これは、門倉さま、思いがけないところで、お目通りいたしますな」
と、しずかに挨拶する。
平馬は、苦が苦がしさを、あらわにして、
「これは、雪之丞、舞台を見たが、なるほど、男ながらに、女そのまま――生身の変性女子を眺めて、何とも驚き入りましたぞ」
そういう言葉には、ありありと、役者を身分ちがいと見、女がたを片輪ものとさげすむ侮辱がふくめられていた。
しかし、雪之丞は、別にいかりの気色も見せぬ。ほがらかに笑って、
「あなたほどのお方から、女そのままとの仰せを伺えば、わたくし、これ以上のうれしさはござりませぬ」
あっさり受けるその容子を、三斎はゆたかな目つきで眺めて、
「平馬、その方、ふだんからどうも気性が固苦しゅうていかん――もっとも、武芸者は、そうあるべきだが、雪之丞とも、年来の馴染とあれば、双方とも、芸術の達人、今後、したしゅういたしたがよろしいぞ」