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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一八

世の中の、噂なぞは、わしには少しも苦にならぬ。よし、よし、向うから、しかけて来たのを倖、公方の随一の、寵愛とかいう、あの浪路とやらを、巧言をもって、たぶらかし、思い切った仕方で、かの三斎めに、先ず第一の、歎きを見せて遣わそう。何事も大望への道だ。ためらう事はならぬのじゃ――

雪之丞は、自分に、そういい聞かせて、じっと、思案に暮れる様子を作って、

「如何にも、これは、わたくしの考え違い。相手のお方が、御息女さまとあるからは、うっかりお断わりなぞ申上げたら、飛んだ失礼になるところでござりました、お言葉に、何もかも、お委せ致すでござりましょう」

と低く、低く、腰をかがめるのだった。

一八

雪之丞が、手の裏を返すように、折れて出たのを見ると、三郎兵衛は、ニヤリと猫族に似た白い歯を現して、

「そうじゃ、そうじゃ、そのように物わかりがよう無うては、芸人はなかなか出世がなりませぬ。いかに名人上手というても、やはり上つ方の、ひいきが無いと、人気は持ちつづけられぬもの――そなたのようにおとなしい気持でいれば、一生、現在の評判をもちこたえること疑いなしじゃ。ことさら、浪路さまは、今夜こそお微行なれ、大奥の御覚え第一、このお方の御機嫌さえ取って置こうなら、どんな貴いあたりにも、お召しを受けることも出来よう。