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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
そうなって御覧じろ、役者としては、日本開闢以来の名誉ではあるまいか――」
と、べらべらと、しゃべり立てたが、
「そういう中にも、何か邪魔がはいるとならぬ。さあ、こう来なさい。御息女のお小やすみの部屋に、わしが案内をして取らせましょう」
江戸で、物産問屋としては、兎に角、指を折られるまでに、立身をしている身で、自分から淫ずら事の手引きをしようとする、この三郎兵衛の態度に、雪之丞は堪えがたいいまわしさを覚えて、ほとんど吐き気すら感じて来るのだった。
けれども、どこまでも頭を下げて、
「何もかも、あなたさまの御恩でござりまする――わたくし風情が御息女さまのお側に出していただけるのは、思いがけないことで、どうぞあなたさまよりも、よろしゅうお口添を願い上げまする」
「よいとも、よいとも、この三郎兵衛が、呑み込んだ上は、大丈夫。まあ、何事もまかせて置きなされ」
一歩、一歩、拭き込んだ廊下を、まるで汚物でも撒かれている道を歩かせられるような、いとわしい、やり切れない気持で、雪之丞は、奥まった茶室風の小部屋の方に導かれて行くのだった。
三郎兵衛は、しいんとした小部屋の前まで来ると、軽い咳ばらいをして、襖をあける。