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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

二〇

「もういつか、秋も深うなって、夜寒が、沁みる――さ、酌をしますほどに、ゆるりとすごすがようござります」

と、ほっそりした手に、杯を取って、雪之丞にすすめる。雪之丞は、

「いえ、わたくしが、お酌をさせていただきまする」

と、いなむのを、

「ま! いつまで、そんな堅苦しい――」

そして、二人の杯は美酒に充たされた。

二〇

雪之丞は、出来るだけすなおに、浪路と、さかずきを、さしつ押えつするのであった。

しかし、彼に取っては、いかなる美酒の香味も、まるで鉛の熱湯を呑みおろすような気持をあたえるに相違なかった。

――辛抱だ――これが、男の辛抱だ!

と、彼は魂に叫ぶ。

――この人の肺腑に食い入って、身も心も迷わせてやれば、お城づとめがおろそかになるに相違ない。

この人が、お上をしくじった暁には、三斎の、いまの勢力は地を払うであろう――

――それが、一ばんいたい心の手傷となるわけじゃ。どこまでも、美しい胸の奥をとろかさねばならぬ――

「ほんに、何という冥加なわたくしにござりましょうな」

と、彼は、片手を襟にさし込むように、いくらか流し目さえ使って、浪路をながめる。

「やんごとないお方さまの、お身ちかく、この世でならびない、御栄華にお生きなされているあなたさまのお側で、たとえ、たったしばしの間でも、こうして御贔屓をおうけいたせる