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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

二一

浪路は、べったりと、雪之丞の方へもたれかかるようにして、

「そなたには、わたしのこのこころが、わからぬと見えますな――舞台の上では、あのようにやさしく、しおらしゅうお見えであるのに、あんまりおもいやりが無さすぎます」

「御息女さま」

と、雪之丞は、かたちをあらためて、膝を正して、

「あなたさまは、わたしを、おなぶりあそばすのでござりますか? いやしい稼業はいたしておりましても、男のはしくれ、あまりのおたわむれは、罪ぶこうござりましょうに――」

「わたしが、そなたをなぶるといやるかえ?」

重ねた杯に、ぽうと染ったまなじりに、限りない媚びを見せて浪路は、一そう若きわざおぎにもたれかかるようにするのだった。

二一

雪之丞は、だんだんに酔い染って来るような、浪路を眺めていると、胸苦しさが募ってゆくばかりだ。

――この人は、たしかにもう、わしの手の中に落ちてしまった。この人はわしからはなれることは出来ぬ。

そう思うと、自足のおもいにおのずから、冷たい微笑が、唇を軽くうごかさずには置かぬ。

「御息女さまに、こうしてたった一夜でもお目にかかって、このまま一生、お召しもうけなかったら、わたくしは一たいどうしたらよろしいのでござりましょう」