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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
なあにそれも、父親の奴が悪堅かったからだがね。あたりめえの人間なら、なんとでも切りぬけられたのだが――」
雪之丞は天井を見詰めながら、そこまで話してきた闇太郎の表情に、暗い憤怒が、ひとしきり漲るのをみた。
闇太郎はちょいと黙って、唇をかむようにしたが、
「いまいう通り父親の奴は、依怙地のくせに算筆も人より長けていたというので、お組頭の側にいて、種々な仕事があるたびに、帳付けをさせられていたというが、そのころ異人の黒船が日本国の海岸に、四方八方から寄せてくるという噂が高く、泥棒を見て縄をなうというような腰抜けな政府も、狼狽くさって、それ大砲、それ鉄砲と、えらい騒ぎをはじめたのだ。筒持ち同心組頭の佐伯五平という奴が、これまた上役に取り入るのが上手な奴、異国の鉄砲を見本にして、江戸中の大きな鍛冶屋たちに、鉄砲造りを仰せつけるとき、その検分の役に廻されたそのそばに、何時もついていた家の父親――衣笠貞之進というのだが、律儀の根性から、これも一生懸命になって、頭の仕事を手伝っていたわけさ。そのうちに、曲りなりにも異国まがいの鉄砲が、だんだん山と積まれて来た。御上納も、二度三度と無事に済んでいったのだが、その鉄砲を、兵隊にもたせて、いざ、ためし打ちをしてみると、どうも工合がよくねえんだ。