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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一七

「御覧なせえ、なかなか上手な細工だろうが――」

雪之丞は、掌のひらに受けて見つめた。それは、とても器用な、素人細工とは思われぬ、三つ組みの、親指程の印籠で、細かく楼閣から、人物やらが刻まれていた。赤い、細い緒が通って、緒じめには、何やら名の知れぬ、青く輝く珠がつけてあった。

「まあ結構なお品で。お前様がお彫りになったので――」

闇太郎は得意気に微笑した。

「代々、観世よりの細工をしたり、から傘を張って暮らしてきたりしたお蔭で、これで、滅法手先きが器用なんだよ、何でも世間じゃあ、変った彫りだといって、珍しがっているそうだが、彫り師の本体が、泥棒と知れた日にゃあ、大事にしてくれる者もあるまいが――それはそうと、その中子をはずして見ねえ、とほうもねえものがはいっているよ」

一七

雪之丞は、いわれるままに、印籠の中子をあけて見た。するとそこには、吉野紙で、丁寧に包んだ丸薬がはいっている。

茶褐色の粒々を、彼はそっと嗅ぐようにして見た。すると、甘く、香ばしい匂いが、かすかに感じられて来るのだった。

「わかるかね? 何の薬か、見当がつきますかね?」

闇太郎は、おもしろそうな調子でたずねる。