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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

四

――やっぱし、人は見かけに寄らぬもの――あの雪之丞、では、一方ならぬ大望をいだいている男だと見える――それでこそ、あの腕の強さ。気合のはげしさ!

彼女は、昨夜、咄嗟、さそくの一瞬の、雪之丞の働きに、今更、思い当たるのだった。

――そして、しかも、その相手の一人が、土部三斎のじじいだとすると、こいつあよっぽど舞台の芝居よりも面白い。ことによったら、このお初も、一役、買ってやってもいいが――それにしても、あの優しい、なまめかしい女がたの身で、随分思い切ったことを考えるもの――

お初は、かぼそい、白い手で、巌石を叩き砕こうとしているのを眺めてでもいるような気がして来て、自分のからだが痛くなるのだった。

彼女は、雪之丞に、ある同情を、今やはっきりと抱きはじめたのだ。

四

軽業のお初と、世に聴えたほどの女泥棒、師弟二人の秘話を、思わず耳にして、さすがに枕さがしもしかねて、そのまま煙のように役者宿を出てしまったが、このまま、これほどの他人の大事、歯の中におさめたまま辛抱していれば、見上げたもの、さすがはいい悪党と、讃められもしたろうに、お初とても、凡婦――凡婦も凡婦、いかなる世上の女よりも、欲望も感情も激烈な、おのれを抑えることの出来ぬ性分だった。