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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

八

わたしは、ねえ、太夫、お前を敵にまわし度くはないのですよ」

お初の目付には、相手の胸の底に食い入ろうとするような、荒々しいものが漲った。

雪之丞は、その瞬間、ハッと、何ものかを感得した。

――この人は、わしに何か望みをかけている。世の中の、多くの女子のように――

彼は一種の恐怖と嫌悪とを感じた。そしてその女が、しかも、自分の大秘密をかなりくわしく知ってしまっているらしいのだ。

八

しかし、雪之丞に取っては、一生の大秘事を、感付いているらしい、この女白浪のお初が、自分に対して、毒々しい恋慕の情を抱いているのがまだしもな気がした。

事を仕遂げるまで、何とか綾なして置くことが出来るとすれば、手荒くふるまわずとも済むであろう――女一人の、いのちを断たずとも済むであろう。

けれども、お初は、恋にかけても、強たかなつわものだ。すこしも緩めを見せようとはしない。

ぐっと飲んだ杯を、突きつけるように差しつけて、

「ねえ、太夫、何もかも、不思議な縁と、きっぱり覚悟をしておくんなさいよ。すこしはこれで、鬼にもなれば、仏にも、相手次第でどうにもなる女なのさ――だけど、ねえ、いのちがけで想い込んだお前、決して、御迷惑になるようなことは、したかあないのですよ」