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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

ふ、ふ、ふ――何だって、世の中の奴あ、色恋ばかりにそう狂っていやがるんだ。

闇太郎は、お初が、さも、通い番頭のお妾さんらしく、黒門町の新道の奥に、ひっそりと隠れていることを、すっかり知っているのだ。雪之丞が、話したような出来ごとがあったあとで、まさか、商売に手を出すはずもない――やけ酒の一ぱいも呷って、自家に戻って来るだろうという推量――

夜更けの裏通りで、警邏の見廻り同心が、手下をつれて、歩いているのに、一、二度出逢ったが、闇太郎は平気で、鼻唄でやりすごして、やがて、しいんとした黒門町の細い巷路にさしかかる。

どぶ板を、無遠慮に踏んで、路地奥にはいって、磨きの格子戸――まだ雨戸がはいっていない、小家の前に立つと、ためらわずに、

「御免ねえ! ちと、急用だが――」

どこまでも、無垢のものらしく住みなしている一家――ばあやが平気で出て来て、

「どなたさんか? おかみさんは、ちっと用があって出て、戻りませんが――」

「それじゃあ、上げて貰って待って見よう――ちっと、大事な話なんで――」

ばあやは、透かして見て、遊び人が、何か筋をいいに来でもしたかと思ったか、