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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

二三

おい、婆や、そう言ってあるものを、出しておくれよ」

「へえ、へえ、只今――」

婆やは、高調子なお初の声の下からそう答えて、小皿盛なぞを並べ立てた膳をはこんで来るのだった。

「親分、おひとつ――」

と、お初は、猪口を突き出す。

闇太郎は、受けは受けたが、すぐに伏せて、

「まあ、姐御、もう少し聴いて貰いてえ。お前だって、生ッ粋の江戸ッ子じゃあねえか――自分が辛いことを忍んでやってこそ、あッぱれ意気な女というものだぜ。それに、若し、お前が、ここで女を見せてくれりゃあ、あの男だって、おれだって、決して忘れやあしねえよ。何かで屹度恩を返さあな」

「闇の親分。お前さんにも似合わずくどいねえ」

と、お初は皮肉に言って退けて、

「これが、渡世の上のことなら、お前さんは立派な男、あたしは女のきれッぱし、あの縄張から手を引けとか、あの仕事は、おれにまかせろとかいうのでもあれば、へえ、そうですか――と、身をひこうが、色恋は、女のいのちなんですよ――八百屋の小娘だって色男に逢いたけりゃあ、火あぶりにさえなるのです。叶わぬ恋の恨みのためには、どんなことでもしてのけるが、あたし達さ。