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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

八

「おわかりにならぬかな? 思い当ることはないかな? のう、太夫、そなたのおかげで、この広海屋、どうやら、江戸指折りの男になれそうじゃが――」

「お言葉、狐につままれもいたしたようで――」

どこまでも、雪之丞は、芸道一すじの、邪気のないふりでいう。

「忘れられたかな? そなた、いつぞや、お重役衆が、わしについて何か仰せられていた話を聴かせてくれたであろうがな――な、思い出したであろ?」

広海屋は、ますます目を細めて、雪之丞をみつめるのだった。

八

広海屋の、さも満足げな目つきを、じっと見返した雪之丞、ハッと、思い当った風で、軽く、しなを作って、膝を打って、

「はあ、いかにも、思い出しましてござりまする――江戸表、米穀払底の折柄、上方のお持米をおまわしになりましたら、さぞ世間がよろこぶであろうという――あの、お噂ばなし――」

「そうそう、その事じゃて――」

と、広海屋は、大きくうなずいて、

「商売のことは、何がきっかけになるかわかるものでない。他人さまのお噂を、すぐに告げてくれられた、そなたの心入れもうれしいが、それを仇耳に聴き流さず、早速決心、手配した、わしの心持も、まず讃めて貰わにゃならぬ。