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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一五

「ほ、ほ、ほ、ほ!」

と、広海屋は、口をすぼめるようにして、笑殺して、

「たわけたことを――そなたが、そのようなことを、どんなにしゃべりまわったとて、世の中で信用するものもなければ、つまらぬことで捨て鉢になり、馬鹿なことをいいふらすのが、耳ざわりと思召せば、あの方々は、そなたを二日とは、この世に生かしてはお置きあそばすまい。まあ、悪しいことはいわぬ。気をしずめたがよかろうに――」

長崎屋は今は憤怒に堪えかねたように、相手の袖をぐっとつかんで、

「広海屋、では、わしを殺す気だな?」

と、唸るようにいいかけた。

一五

「そなたを殺す? 殺したとて、わしに何の役に立とう――まず、気を鎮めたがよいと申すに――」

と、広海屋は、長崎屋がつかみしめた袖を、振りはらって、

「そなたは、ちと、気がどうかしたそうな!」

「気も狂おう! 二十年の、苦労、艱難、おぬしのために滅茶滅茶じゃ――覚えておれ――どうするか!」

長崎屋は、ズイと立って、荒々しい足どりで、広間を出て、そのまま、階下に下りてしまったが、荒れすさんだ気色を見て、茶屋を出てゆくのを、引き止めるものもないらしかった。