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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

「それにしても、人は見かけによらぬものッてネ――お坊さんなぞは、鮹ざかなかなんかで、かどわかしの娘っ子でもさいなんでいそうに見えて、ほんとうに親切なところがあるわねえ」

「当り木よ」

と、法印、上機嫌で笑って、

「人間が見たとこ通りなら、世の中に売僧も毒婦もありゃあしねえわサ、おいらなんぞは、島抜けの何のと、世間では悪くいうが、本心は、どんな仏さまよりやさしいのだ」

「え? 島抜け?」

と、お初は、茶碗を持ったまま、大きな目で、法印を眺めた。

「島抜けッて! お前さん、佐渡でも破って来なすったことがあるのかえ?」

島と言えば、誰にも思い及ばれるのが佐渡、その島には、お初には初恋の、長二郎泥棒が送られたなり、今ごろは、生きて難儀をしているか、死んで地獄へ行っているかわからないのだ。

法印は頭を掻いて、

「いや、こりゃあ、美い女の前で、つまらねえことをしゃべってしまったものだ。なあに、島と言ったって、佐渡が島、この世の地獄へやられるほど、景気のいい悪党でもねえのサ――おれの送られたのは、三宅島――うわさに聴いた金山に比べりゃあ、極楽同然だということだが、何といっても、どこを見ても、海ばっかり――女ときたら潮風で、髪の毛さえ赤ッ茶けた奴ばかりだ。