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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

八

そして直きに、辻駕籠は思わぬ客を拾った喜びに、いそいそと、こちらへ近づいて来る様子。

すると、突然、たったいま、あの訝しい若者の、声がしていた方角で、

「御用だ。闇太郎! ――」

「闇太郎、御用!」

と、けたたましい叫びが起り、足音が、荒々しく入り乱れる。

雪之丞は、はっとして、日頃の仕来りで、女らしく、振りの袂で胸を抱いた。

――まあ、あの騒ぎは! ――

彼は、直覚的に、夜廻り役人から、御用の声をあびせかけられている当人は、いまここを退いたばかりの、あの若者であるに相違ないと思うのだ。

雪之丞は、この府内に最近上って来たばかり、闇太郎という名から推して、大方、盗賊、夜盗の綽名とは思ったが、それにしても、あの粋で、いなせで、如何にも明るく、朗かな若者が、そうした者とも思われない。

首を傾げていると、目の前に、辻駕籠がとんと据って、

「へえ、お待ち遠さま――。駕籠の御用は、あなたさんで、――?」

と、先き棒が言うのだった。

八

雪之丞が、通りの向うの闇を見つめたまま、前に据えられた辻駕籠に、乗ろうとしないので、駕籠舁が、

「さあ、どうぞお召しなすって――」

雪之丞は相変らず、瞳を前方に注いだまま、心がここにない風で、