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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
二〇
「拙者、今夜は、いかなる幸運か――吉祥天女が天下ったような気がして、とんと、気もそぞろになり申すよ。は、は、は、は、は」
笑いが笑いにならない――情慾が全身を硬直させてしまっているのだ。
二〇
お初は、門倉平馬の表情に、異常な狂奮が漲って来るのを見ると、いいしお時だと思って、
「ねえ、門倉先生、あたし、ちょいと思いついたことがあるのですけれど――」
「何でござるな?」
杯を手にして、眇めたような目で、じっと見る。
「雪之丞のことですけれど――」
雪之丞――と、いう名が出ると、平馬の目いろが変るのだ。
「ウム、あのばけ物のことで、何か――」
「実は、あたくしに取っては、土部さまのお娘御のことなぞは、どうでもいいのですけれど、あの男を、あのままにほうッて置くわけにはいかない気がしてならないんです」
「ふむ、まだ、未練が残ってならぬと、申すのかな?」
毒々しくいいかけるのを、お初は軽く笑殺して、
「まあ、先生も、剣術には明るいかも知れないけど、女ごころはおわかりになりませんのねえ――江戸の女というものは、自分の望みを――折角掛てやった想いを、無慈悲に突っ刎ねるような男に、いつまでもでれでれしちゃあいないのですよ。