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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
と、先棒が、
「何しろ闇太郎といっちゃあ、大した評判の人ですよ。いわば義賊とでもいうのでしょうか――大名、豪家、御旗本やら、御用達、――肩で風を切る、勢いで、倉には黄金は、山程積んであろうところから、気随気儘に大金を掴み出し、今日の生計にも困るような、貧しい者や、病人に、何ともいわず、バラ撒いて、その日を救ってやるという、素晴しい気性者、そんなわけで、江戸中の人気が一身に集まっているのです」
「そういう人のことですから、いつどんな場所で、御用の声がかかっても、元より当人は素ばしっこい腕利きですが、町の人達、通行人も、役人に腕貸しをするような、出過ぎたことはいたしません。いまのいまだってなあ――先棒?」
「そうよ。たったいまだって、この方が駕籠が欲しいようだぜ、と、声をかけてくれたその人が、五間と向うへ行かねえうちに、御用の声だ。闇太郎という声がなけりゃあ、役人衆に手貸しをして、捕めえるが、こっちらの務だろうが、あの呼びかけがあったので、わざと、聞えねえ振りをして、後も向なかったわけなのです」
雪之丞は、始めて、一切が呑み込めたのだった。
彼は、駕籠舁たちよりも、一そう強く、あの若い生き生きしい、いなせ男を、思慕せずにはいられない。