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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

七

「おのれッ! いわせて置けば!」

と、押えかけて、ぐッと、刀を突ッかけて来るのを、かわして、

「ほ、ほ、これはまた、性急な方!」

と、笑って見せて、その手首を、やんわりと、握りしめた雪之丞、ぐいと、引きつけて、狼狽てて、身を退こうとする相手の力に、きかせるように、スルリと、かごから出てしまったので、たとえ、出しなを斬ってしまおうと、企んでいたとて、きっかけを失われてしまったのだ。

「聴いたにまさる、しぶとい奴だ! さあそれへ坐れ!」

ほかの若僧たち、太刀の切ッさきで、追うように、荒薦に坐らせようとする。

「これは、御丁寧すぎる、おもてなし――」

にんまりと、花のような唇を綻ばして、まるで、舞台にいるときにも似たしとやかさで、くの字なりに居くずれて、片手を突いて、じっと、見上げた目の行く先、鈍い燭の灯に照らされた、縁の上――

思い設けたとおり、そこに、威を張って、肩をそびやかし、三白眼を、光らせて控えているのが、門倉平馬――別に、雪之丞をおどろかすには足りない。

左右に、五人ばかり、これも、いくらか鍛錬は積んでいるに相違ない、面ずれというのに、小鬢、小額を、抜け上らせた、連中が、敵意と、好奇心とに、目を剥くようにして押し並んでいる。