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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

と、殆んど、間を置かず、ひどく深い穴の底でも、同じような咳ばらいがする。これがこんな場合それといわずに、自分の本体を、知らせ合う法で、咳ばらいには、めいめいの特長があるから、ほんのかすかな、小さな、低いひびきでも、お互に、ははあ――近づいて来たのは、誰だな? 何人だなということが呑み込めるわけだ。

闇太郎が、綱の一たんを掴んで軽くゆさぶった。

――この綱にすがって、上って来い。

と、すすめたのだ。

すると、たちまち、その綱が、ビーンと緊張して、スルスルと、上って来る者があるのが、闇太郎の指に感じられる。

上り口まで来たところで、手を腕にかけて、引き上げてやる。

「太夫、わびはあとだ。さあ、先きへ戻りな」

と、雪之丞が板張に立ったとき、闇太郎は囁いた。

一一

須弥壇下の闇の中――

手と手を取り合ったが、雪之丞、闇太郎、多言の場合でない――

「外へ――早く! 宿へ戻るがいい」

「かたじけない」

外の気配を、じっと、うかがった雪之丞、ふたたび、引き戸をあけて、つい、一瞬に、すがたは、もう、消え失せる。

本堂にたたずんで、コソリと、杉葉が、たった一度、裏庭でかすかに鳴るのを聴いた、闇太郎、