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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
一一
――ウム、これでよし――
と、心の目で、雪之丞が、もはや、寺後の杜を抜けて、塀さえ越してしまったのを、見届けてつぶやいたが、
――それにしても、俺にゃあ、このままじゃあ、帰えられねえ――お初の奴に、ちょッぴり礼を言わねえことにゃあ――
スウッと、本堂を、物の影のように抜けると、いつか、庭へ下りて、さも遠くから、たった今、駆けつけて来たかのような息をし、妙に掠めた、低い調子で――
「吉ッつぁん――黒門町の、もしや吉さんというお人が、このお寺に来てはいやあしませんかね?」
庫裡の、上りがまちに、腰を下ろして、いずれ、悪徒らしいかごかきを相手に、これも寒さ凌ぎの、冷酒をかぶっていた、がに股の吉が――
「たれだ? 俺の名を云うなあ――」
と、不気味そうに、びっくりしたような、
「手めえは何だ?」
どこから、出し抜けにあらわれたか、突如として、暗がりの庭にはいって来た男を見て叫んだ。
相手は、そんなことには、頓着なく、
「おお、お前が吉ッつぁん――安心しやした。さっき、池の端を駆け出して、川向うまで、一足飛び――大てい、この辺だろうと、お杉の姐御が言うものだから、見当はつけて来たが、若し一あし違えになったら大変だと思って――」