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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

お初の声の下から、平馬の門弟の一人が、座敷へ来て、燭台から、百目蝋燭を火のついたまま、抜いて掴んでゆく。

が、どんな灯りも無駄だ。

「まあ! あいつ、どうしたのだろう? 厳重に錠を下して置いたのに!」

お初が、さすがに、絶叫した。

――へん、外からあけて、抜け出さして、また、ちゃあんと、しまりをして置いたんだ。

と、闇太郎は、赤い舌さえ出して、嘲って、

――もっともっとびっくりしやあがれ!

平馬の声が、

「どれ、拙者に蝋燭を――どんな、隠れ穴があるのかも知れぬ――下りて、見てまいる――」

「お気をつけなさいよ――隠れていたらあぶないから――」

「なあに、こうしてまいれば――」

抜き身の刀を提げて、綱をつたわって下りてゆくつもりらしい。

門倉平馬、惚れたお初の目の前で、何とかして勇気を示し、いつぞや以来の、不信用を取りかえしたいのであろう――自分だけは、今夜同伴の剣士たちとは、ちっとはちがったものだということを示したいのであろう。

平馬が、穴の底に着いたと思うころ、闇太郎、突然、バラバラと、縁端に走り寄って、大きな透る声で叫んだ。

「ざまあ見ろ! お初、手前ッちが、このおれさまに張り合えるかい! とんちきめ、尋ねる人は、もうとッくに楽々と、蒲団の中で楽寝をしていらあ――あばよ!」