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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

七

雪之丞の背すじを、ぞうッとした戦慄が走った。

――こりゃ、浜川が、あぶない!

若し、広海屋に、すぐにあばれ込むつもりであれば、身を忍ばせる必要はないであろう。待ちかまえて、何かするつもりに相違なかった。

彼は、河岸に積まれた、空箱でもあろう、うずたかい物に身を貼りつけた。

と、聴け!

「ホイ、ホイ!」

と、かなたの闇から近づく辻かごだ。

七

――いよいよ、浜川が、着いたな。

と、雪之丞の、冷厳な瞳が、闇を貫いて、広海屋の店前をみつめたとき、飛ぶように駆けつづけて来た辻かご――

「ホイ! ホイ! ホイッ!」

と、先棒、後棒、足が止まって、タンと立つ息杖、しずかに乗りものが、下におろされる。

「旦那さま、お約束のところまで――」

と、先棒が、汗をぬぐって、いいかけたとき、突然、天水桶の間から、ぬっと魔物のように現れて、ふところに、右手を――恐らく、匕首の柄をつかみしめているのであろう――つかつかと、かごに歩み寄った長崎屋――

その、髷がゆがみ、鬢はみだれ胸元もあらわなすがたに、びっくりして、かごかきが――

「わりゃあ、何だ? 気ちげえか――」

息杖を取りなおすひまもない――キラリと、白く、冷たく光る短い刃が、鼻先きにつき出されたので、