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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「わああッ!」
と、後、先、そろって、大の男が、しかもからだ中、文身を散らしているのが、一どきに、五間も飛び退いてしまう。
そのさわぎに――
「何じゃ?」
と、聴きとがめたが、まさか、まだ、三郎兵衛が、先き潜りをしているとは、思わぬ浜川平之進、左に刀を抱いて、
「下りる――穿きものを――」
と、垂れを自分で上げかけたとき、
「へ、お穿きもの――」
妙に、掠れた、笑うような、ばけ物ごえで言った三郎兵衛、かごに引ッついて屈む。
かごにはさんであった雪駄が、揃えられているのへ、足をのせて、やがて、上半身が外へ、出かかったその刹那、
「おのれ! 片割れ!」
ぐうッと、抱きすくめるようにして、切ッ先きを、脇腹に、突ッ込んだに相違ない。
「わあッわあッ」
と、叫んだが、平之進、引く息を、一つ大きくして、
「う、う、う、う――」
と、叫びが、呻きに変って、地面にのめる。
「人殺しだあ!」
と、駆けゆくかご舁。
平気な三郎兵衛――
――トン、トン、トン、トン!
と、大戸を叩いて、
「お願いだ! あけてくれ!」
――トン、トン、トン!
「松枝町からまいッた! 広海屋! あけてくれ!」