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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
手代の一人が、
「何ともはや、妙なはなしでござります。お種どのの申しますには、煙に捲かれて、廊下まで来ると、ゆき会った一人の男――あぶないゆえ、お坊ちゃまを渡すがよい――と、無理に、お種どのから奪い取るようにして、そのまま、お坊ちゃまを抱いて、どこかへ行った――と申しますので――」
「その相手が、誰とも見当がつかぬというのか? 覚えていないというのか?」
と、広海屋が、焦ら立たしげに――
手代は、笑止げに、
「それが、何分、動顛した折――男とのみしか、覚えてはおらぬと申します」
「と、いっても、うちの中に、他人さまが、はいって来ているはずはなし――火事が大きくなってからは知らぬこと――あのときなら、店の者たちばかりの筈だ。さあ、急いで、探して見ろ! 店の者で、誰か、見えないものはいないか!」
広海屋は、真赤な火の手のひかりをうけながら、青ざめて叫んだ。
――ことによったら、一つぶ種――救おうとした者と一緒に、炎に捲き込まれてしまったのかも知れぬ。
と、いう予想に、胸もつぶれるばかりである。
母親は、広海屋の袖をつかんで、
「ごらんなさい、申さぬことか! このごろ坊やが夜泣きをして、考え事に邪魔だというて、あたし達の寝間から遠ざけ、乳母と一緒に、庫前なぞへ寝かしたから、こんなことになりました。