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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一四

その中をくぐりくぐり、やっとのことで、遁げ延びて来た柳原河岸。一方は大名屋敷の塀続きで、一方は石置場。昼間でも、夜鷹が茣蓙を抱えて、うろついているような、淋しい場所だ。

闇太郎――ここまで来て、もう此方のものだと思った。石置場の暗がりに飛び込んでしまえば、どのような鋭い探索の目も、及ばぬであろう。その上河には、主のない小舟も、何艘か、かかっているのだ。

その石置場へ、今や遁げ込もうとした闇太郎。激しく何者かに呼びかけられて、はっとして立ち竦んだ。

「待てッ、怪しい奴」

見れば、つい目の前に、大たぶさの侍が、突っ立っていた。

一四

石置場の暗がりに、飛び込もうとした闇太郎――出し抜けに呼びかけられて、向き直った目の前に、大たぶさの若い武士の、立姿を見出した刹那、いつになく、はっと、衝撃を感じた。

無造作に突っ立った、相手の体構えに、不思議な、圧力が漲っていたのだ。何十何百の、捕り方に囲まれても、一度も周章たえたことのないような、不敵者の彼だった。

――こいつあ、一通りでねえ、代物だぞ!

と、心に呟いて、いままで、単に、捕り方たちを威すために抜きかざしていた短刀を、握りしめて、前屈みに、上目を使って、じっと侍の様子を覗った。