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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一六

この人物、まぎれもなく、門倉平馬――闇太郎とは小梅廃寺での出会い以来、敵味方に対立してしまっていた。

「こりゃ、おのれ、こないだは、ようも煮え湯を呑ませたな!」

と、ぐっと目を剥いた平馬、

「おのおの方、こやつ何か、ゆすりがましいことでもいうてまいったのでござろう。お手を下すには及ばぬ――拙者が――」

立ちかかって、襟髪をつかもうとすると、

「これ、平馬さん、この俺に、指でもふれると、御隠居から御勘気だぞ――見ろ、大事な品物を、御前にとどけに来ているのだ」

「何だ! この函は?」

平馬が、大きな風呂敷包に、手をかけかけたとき、さっき、奥にはいった老臣が戻って来て、狽てたように、

「これ、門倉、何をなさる!」

思いがけない一声に、

「はッ!」

と、平馬が、すくんで、

「夜陰怪しからぬ者がまいって、お玄関をさわがしております様子ゆえ――」

「心添いはうれしいが、貴公、お出になるところでもない」

老臣は、ぴしりといって、ふくれる平馬には見向きもせず、

「その方、伺ったことを、御隠居さまに申上げたところ、とにかく逢うてとらせようとの思召し――お庭先きにまわれ!」

「へえ、庭先きへね――へ、へ、へ」