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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「うむ」
キラリと、老臣の目が光る。
「それについて、是非とも、御隠居さまに――御隠居さまに、闇が来たと、おっしゃって下せえ」
「ナニ、闇――」
「申し上げればわかりますよ」
一六
老臣は、しぶりながらも、家中へはいって行った。闇太郎は、あたりを眺めまわすように、
「ふん、やっぱし、年は取らせてえな――ね、お若い方々、ごらんなせえ、あのお人はじきにむくれ出しはしねえよ、ちゃあんと用を足して下さるよ――」
そういって、式台にしゃがんだが、そのときには、もう、島抜け法印のすがたは、無かった。
「ほ! 法印の奴、すばしっこいな」
闇太郎、殆ど、押ッ取り刀で、取りかこんで、睨め下ろしている若侍たちの中で、平気で腰をさぐって、莨入を取りだすと、
「済まねえな。火を貸して下せえな」
「何をこやつ!」
先程から、威光を損なわれたように、じりじりしていた家来が、いきり立ったとき、脇玄関の方から、廻って来た、一人の人影。
闇太郎と、目を合せると、
「やッ! 貴さまは!」
と、鋭く叫ぶ。
「これは、門倉さんでしたね? 平馬さんでしたね――ひさしぶりだね」
闇太郎は、立ちはだかった。黒小袖に、同じ紋付、いかめしげな男を見上げて微笑した。