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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
四
「お、あなたさまは、孤軒先生!」
「ウム、思い出したかな?」
と、相手は、ますます楽しげだ。
役者は我れを忘れたように、高脚の机をまわって、老人にすがりつくようにして、
「わたくしとしたことが、大恩ある先生と、お別れして、たった五年しか経たないのに、お声を忘れるなぞとは――でも、あんまり思いがけなかったものでござりますから――」
美しく澄んだ目から、涙がハラハラと溢れて、白い頬を流れ落ちる。
「おなつかしゅう御座りました――だしぬけに、大坂島の内のお宅から、お姿が無くなって以来どのようにお探し申しましたことか――」
「あの当時、とうに退こうと思うていた大坂――そなたを知って、訓育が面白さに、ついうかうかと月日を送ったものの、そなたに入要なだけの学問は授けるし、もうこれで役が済んだとあれからまた、飄々四方の旅――は、は、とうとう、今は、江戸で、盛り場、神社仏閣のうらない者――が、久々で、めぐりあえて、うれしいのう」
老人は、笑みつづけて、青年俳優をしげしげと見たが、
「中村菊之丞一座花形の雪之丞、津々浦々に聴えただけ、美しゅうなりおったの」
四
雪之丞と呼ばれる役者は、大そう美しゅうなった――と、讃められて、小娘のように、ポッと頬を染めたが、つくづく相手を見上げて、