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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
いうまでもなく、大身、大家の一行、出かけるにも手間が取れようとは、思っても、万一、模様変えになって、今日、その顔を見ることが、出来ないようになると、何となく、大望遂行の、辻占が悪くなるような気がされて、雪之丞、胸が鬱してならないのだった。
――あまり、とんとん拍子に、前兆がよすぎるような気がしたが、この辺から、何か、ケチがつくのではあるまいか――
雪之丞は、そんな予感に、心を暗くしながら、滝夜叉の変身、清滝という遊女すがたになって、何本となく差した笄も重たげに、華麗な裲襠をまとい、三幕目の出をまっていた。
出場が、知らされて、遊里歓会をかたどった、舞台に出る。
師匠菊之丞が扮する、身を商賈にやつした藤原治世との色模様となる場面であった。
にぎわしい下座の管絃のひびきの中に、雪之丞は、しっとりと坐りながら、なまめいた台詞を口にしつつ目をちらりと、例の東桟敷の方へと送った。
雪之丞は、受けた朱杯が傾くのを、その瞬間、禁じ得ぬ――見よ! その紫幔幕がしぼられたあたりに、十人あまりの男女がしずかに控えて、熱心な注視をそそいでいるのだ。
彼は、その人達の瞳と、自分のそれとが、はっきりと、真直に衝突したのを感じた。