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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

浪路は、明らかに眉をひそめた。彼女の、白魚のような右の指先が、美しい額をおさえる。

――ふ、ふ、ふ、まだ雪之丞を手に入れもしないのに、もう自分の情人のことをかれこれ言われてでもいるように、やきもちを焼いている。まあ、待っていなさいよ。きっと、このわしの力で、何とかまとめて上げようからね――そのかわり、わしが頼むことがあったら、お前さんも、よろしく肩入れをしてくれるのだね――

と、顔には追従笑いをうかべて、心にはさげすむ長崎屋三郎兵衛、

「浪路さま、お一つ、お盃をいただきたいものでござりますが――」

「わたくしは、また頭が痛んでまいるといけませぬゆえ――」

と、いうのを、

「いいえ、召し上りなされませ。何でもにぎわしゅう、陽気にあそばせば、お風邪気なんぞは、飛んで行ってしまいます」

「では、差し上げましょうか――」

と、いくらか微笑して、盃をさしたのも、彼女にすれば、雪之丞に今夜逢えるのも、心利いた三郎兵衛のはからいだと思えばこそであったろう――

ところへ、女中が、

「中村座から、お着きになりましたが――」

と、顔を出す。

一二

「ほ! 待ち人がまいられたそうな――お出迎え――お出迎え!」