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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
控えの三畳に、つつましく坐った、小間使に、笑がおを見せて、
「御息女さまに、三郎兵衛、まいった由、申し上げて下され」
と、礼儀だけに言って、かまわず、雪之丞の手を引くようにして、小間使のあとからはいって行った。
休息用の、ふさ飾りのついた朱塗り蒔絵の枕は、さすがに、隅の方に押しやって、やや居くずれて、ほのかな灯影に、草双紙の絵をながめていた浪路、三郎兵衛が来たというので、目を上げると、パアッと、白い頬に血を上らせた。
「ま!」
彼女の、紅い唇から、驚喜のつぶやきが、思わず漏れざるを得ない。閾うちに膝を突いた三郎兵衛と並んで、そこにしずかにひれ伏しているのは、今日偶然舞台でその姿を一目見てから、ゾーッと身ぶるいの出る程の恋ごころをおぼえてしまった、上方下りの雪之丞その人ではないか!
三郎兵衛は、さも、内輪な、したしげな調子で、親密なまなざしを送りつつ、
「浪路さま、雪之丞が、おつれづれを、おなぐさめいたしたいと申しましてまかり出ました。上方のめずらしいお話もござりましょう。お相手おおせつけ下されまし。さ、雪之丞どの、まそっと、お進みなさるがいい」
一九
雪之丞が目をあげると、その瞳は、熱い、燃えるような視線を感じるのだった。