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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
書置きでみると、佐伯五平が検査する筈の上納鉄砲は、そのころ五平が病気をしていたので、全部父親が代って、吟味をし、上納を許したのだとか、そのとき係りの鍛冶屋から、貧にせまっていたので、つい、賄賂を飼われたのだとか、そんなことが書いてあった。父親が死んだので、佐伯五平の奴は、軽いお咎目があっただけで、なんの事もなく済んでしまった。だが、おれも、もう、物心がついていたから、本当に父親が不浄の金を商人から取ったかとらなかったかぐれえなことは、よく分っていた。おれの家は、父親が死んでも、葬式の金にも詰っていたんだからね。おれにゃ、ばかばかしくって、家督をもらう気になんぞなれなかった。ただ父親がどんな成行で死んだのか、その本当のことが知りたかった。こんな気質のおれだから、何度でも五平の家に押しかけていっては、面会を願ったのだがきいてくれねえ。若いも若いし、かッとして、ある日、五平の外出を狙って、素ッ首を叩きおとしてやろうとしたが、かすり疵をつけただけさ。おれは父親が憎らしかったよ。馬鹿な奴だと口惜しかった。お役目の上から、いかに日頃、側につかえていたって、その上役がやった不正を、だまって自分で背負いこんで、腹を切り、女房や子たちにまで、嘆きをかける唐変木があるものか。