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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

おれは、代々、僅少な扶持をもらって、生きている為に、人間らしい根性をなくしてしまった、侍という渡世が、つくづく厭になったんだ。それで五平を叩っきりそこなうと、すぐその場から、おさらばをきめて、それからはお定まりの、憂き艱難というやつさ。身体は身軽、年齢は若し、随分乱暴な世界を平気で歩いたが、しかし、まだそのころは、泥棒だけはしなかったよ」

闇太郎はそこまで話してきて、火鉢の火を見詰めるように、うつむいている雪之丞を見て、

「どうも、あんまり結構な話でもねえ。面白くねえだろうから止めにして、台所には白鳥が一本おったっている。熱燗をつけて、これで中々好い音声なんだ。小意気な江戸前の唄でもきかせようか」

「どうぞ、お差支えがなかったなら、もうすこし話してくださいまし。わたしも、身につまされることもあるのですから」

と、雪之丞が顔をあげて、いくらか翳ったような瞳で、相手を見上げた。

晩秋の真夜中の風が、田圃を吹きわたして、背戸口の戸をかすかにゆすぶっていた。

「そうか、じゃあ、もう少し聞いてもらおうか」

と、若き盗賊は、ふたたび話をつづけた。

一一

闇太郎が、それから例の鉄火な口調に、しんみりした侘しさもまじえて、話しきかせたのはおおよそこんな事であった。