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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

あなたさまより、広海屋の旦那さまへも、よろしゅうおわびをなされて下さりませ」

「なに、中座したいといわれるのか。それは残念な――酒宴もまだはじまったばかり、今しばし待たれたら――わしも、広海屋さんも、更けたなら、よいところまで、そなたとかごを連らねられると楽しみにしていたに――」

と、三郎兵衛がいうのを、

「お言葉に従いとうはござりますが、役目も大事にいたさねば、舞台に何かと障りも出来、御贔屓様に、相すまぬようなことにならぬとも限りませぬゆえ――」

と、辞退すると広海屋も聴きつけて、

「太夫が、かえられますとか――のこり惜しいな」

――残り惜しがりなさるには及ばない。ついじき、そこに待ち合せておりますぞ。

いい程に、言いこしらえながら、店中の形勢を眺めると、ことに依れば、この一座、これから吉原仲の町へでも、繰込もうという気配も見える。幇間、末社が、しきりとはしゃぎ立てている折を見て、座をはずした雪之丞、そのまま、見世口へ出て来ると、

「おかえりなら、乗ものを――」

「かごを――」

と、ひしめく家人を制して、

「どうぞ、それには及びませぬ。はじめての御当地、お店前から乗ものに乗るなぞとは、旦那衆と御一緒なら、兎に角、勿体ない。