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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

お初は、おどすようにつづけた。

「もし、おめえが、うわ気ッぽく捨てでもすると、覚えておいでなさいよ――どんなことになるか――」

「わかったよ」

長二郎は、小娘の激情に威嚇されるはずもなかったが、それもこれも、自分の心をはなすまいとする気持からだと思うと、いじらしくあわれに思った。

彼は火焔玉屋から、遠のいてしまった。

長二郎、お初の恋は、そして、ますます熱度を加えたものの、そうした生活に、破綻の来ないはずがない。

間もなく、長二郎もお初も御用になって、男の方は、首の座が飛ぶところを、侠気の点を酌量されて佐渡送り――お初は、一年あまり、牢屋ぐらしをして、出て来たのだったが、それ以来、彼女は一生かえれぬところへ送られた情人の渡世に転向して、やがて、押しも押されもせぬ女賊となり、変幻の妙をきわめて、男の手下を養い、おれ、の、てめえ、の、というような、荒っぽい調子で、鬼をあざむく奴等をこきつかっているわけだった。

そのお初、素性が素性ゆえ、身が軽かった、手先きも鋭かった。

であれば、三斎屋敷への出入りなぞは、塀が高かろうと、低かろうと、物のかずではなかった。