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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

あたしは、お前をちっとも苦しめたいことはないのですよ。たった一度、かわいそうな女だと、抱き締めてくれさえしたら――」

「そなたは、わたしが、どんなに本気に申しても、わたしの心の誓い、神ほとけにも誓ったことを信用が出来ないのだ」

雪之丞は、困じ果てて、

「わたしが何も、そなたがどんな渡世をしているからというて、それをいとうではさらさらないなれど、今この場で、望みを叶えて上げることは、何としても日頃の高言に思い比べても出来にくい。そこを、よう聴きわけてくれたなら――」

「いいえ、いやじゃいやじゃ」

と、女賊は、髷がゆるみ、鬢の毛がほつれるほど激しく、かぶりを振って、ぎゅっと、雪之丞の二の腕を、爪の立つほどつかむのだった。

「あたしは、思い立ったら、ついその場で、火にも水にも飛び込んで来たからだ――ことさらここまで思いつめ、ここまで口に出した願い、この場でなくては怺えられぬ、いやなら、いやで、あたしだとて、可愛さ、憎さ――どんなことでもしてのけますぞえ」

事実、この女、自分を捨てる気になったら、こうして一緒に地獄の底までも引き落してゆくだけの、怖ろしい決心をつけかねぬ形相だ。