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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
雪之丞は、運命のいたずらに、呆れ果てた。
――蠅一匹殺したくはないのだけれど――ことに依ったら、この女を、何とか始末せねばならぬか知れぬ。
雪之丞、毒蛇のように、火を吐かんばかりに、みつめて来る、相手をチラリと見返して、
――思い直してくれればいいのに、何という執念ぶかさ!
「何をじっと見ていなさるのさ」
お初は、手酌で、杯をふくみながら、
「あたしの顔が、蛇にでもなったの? 角でも生えたの?」
「ではこういたそうかしら」
と、雪之丞は、強いたやさしさで、
「折角の、そなたの心持、このまま、別れてしまうのも、何となく、わたしも心淋しい――さりとて、この家では、どういたそうとて、人目もある――」
「ま!」
と、お初は、急に、生き生きと、躍り立つような目顔になって、
「嬉しい!」
「大分更けたようだし、そろそろこの家を出た方が――」
「で、これから、どこへ行くつもり」
お初は、猪口を、器用に、水を切って、
「外は寒いから一つおあがんなさいな」
雪之丞は、うけたが、呑まずに、膳に置いた。
「待乳山とやらの下に、しずかそうなうちがありましたが――」
一〇
二人一緒に、芝居茶屋を出ることが、はばかられるので、山ノ宿、文殊堂の裏手で、まち合せる約束をして、まず、雪之丞が座を立った。