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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「そこまでその方が申すなら、見せても遣わそう。したが、この独創天心の流儀は、そのように焦心、狂躁いたすようでは、なかなか悟入することは覚束かないぞ――」
そして手にしている巻物を、
「雪之丞、まずその方より、――」
と、若女形の方へ差しだした。
雪之丞にすれば、何も、兄弟子平馬に先んじて、秘伝伝授を受ける心はないが、折角の折柄を妨げられて、不安を感じていたのを、師匠が、片手落ちなく両方へ、披見を許すといってくれたので、やっとほっとして、白い手を恭しく差し伸べたのだった。
すると、その刹那――間髪を入れず、ぱっと躍り上った門倉平馬、師匠から雪之丞へと、渡されようとする巻物を、傍からひっ掴むと、飛鳥のような素早さで道場外へと、飛び出した。
はっと驚愕した雪之丞、
「狼藉!」
と、叫んで、これも飛び上って跡を追おうとする。
一松斎は、呼び止めた。
「追うな。心を静めて坐れ」
「と、仰せられても――」
と、雪之丞が、踏み止まりながらも、心は、無礼暴虐な平馬の姿を追って、うわの空――
一松斎は、寧ろ悲し気に微笑していた。
「天から授からぬものを、強いて暴力で奪おうとしたところで、何も得られはせぬ。