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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
と、でも、男同士なら怒鳴りつけたいのだ。
相手が、女、折も折、じっと、怺えて、苦く笑って、
「まあ、姐御、そんなに腐らねえでもいいじゃねえか――どうせ踏み込んだ泥沼だよ――それに、素ッ堅気がっている奴だって、大ていおれ達と違ったものでもねえようだ。おれたちは、正直ものだから、正直に渡世をしているだけさ。何でもありゃしねえじゃねえか――くよくよしなさんなよ」
「くよくよなんかしたくはないけれど、此の世で二度と色恋なんかするんなら、ここまで持ちくずすんじゃなかったと思って――」
と、言って、お初は、またも、縋りつくような目つきになって、
「親分、恩に被ますよ――ほんとうに、さっきから言うとおり――ね、たった一度、ゆっくり話せればいいのだから――因果な女だと、嗤ってね――」
闇太郎は、もう、一刻も早く、この痴情に心魂を爛らしてしまった年増おんなの前が、逃げ出したくなった。
「わかった、出来るだけやって見ようが、――そのかわり、おまはんも、じっくり待つ気になって貰いてえ」
「ああ、辛抱出来るだけ辛抱していますからね――まあ、三日四日にネ」
闇太郎は、淋しいひびきを立てて、冷たい風が流れている往還へ出て、はじめて、ホッとすがすがしい息をした。