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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

明日よりは、鬼のこころとなるつもり――」

闇太郎は、励ますように、

「噛まれたら、噛め、斬られたら、斬れ――おめえが、どんな酷いことをしてやろうと、お父さんお母さんの恨み、おめえ自身の苦しみに比べりゃあ、物のかずではありゃあしねえ、気を弱く持っては駄目だ。敵というかたきの、咽喉笛に喰いついてやんねえ。曾我兄弟は十八年――おめえの苦心も、ずい分長いものだったなあ」

雪之丞は、行灯の光をみつめるようにしながら、じっと、唇を噛んでいた。

闇太郎は、ふと、気がついたように、

「あの女のいきさつを知らせてえし、何だか気にもかかるので、やって来たのだが、長居は怖れだ。師匠でもはいって来ると工合がわるい。じゃあ、けえるぜ」

「何から何までお心添え、一生、未来、忘れることではありませぬ」

「おいらも、おめえのことは、一刻も忘れねえつもりだ――しがねえからだだが、いつもいつも、うしろには、田圃の職人がついていると思って、存分にやってくんなよ」

闇太郎は、立ち上った。

見送る、雪之丞――女中どもの前では、どこまでも、役者と、牙彫師――

「では、雪之丞親方、いずれそのうち」

「そなたにも御機嫌よろしゅう」