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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

その翌夜。

雪之丞は、魚河岸から、美しい交ぜ魚、上方から持って来ていた京人形、芝居錦絵、さまざまな品を、とりそろえ、二度目の病気見舞として、三斎屋敷に、例の浪路を音ずれた。

こないだ、盗賊の害を、未然に防いでくれたというので、土部家の歓待は、前にもまして、今は殆んど、内輪の者も同然の心易さだ。

隠居は、恰度、入浴中とかで、すぐに、浪路の病間――奥まった離れに通される。

実家に戻ったばかりには、恋にやつれて、正真の病人らしく見えるまでに、やつれ衰えても見えた浪路、雪之丞と、かたく誓いをかわしたと信じ切った今は、頬のいろも生き生きと、瞳には、きらめかしい輝きが添わって、唇の艶は、まるで、春の花のようだ。

その目、その口が、雪之丞を見たとき、燃え、喘いだ。

「まあ、いそがしい中を、よう忘れずに――」

と、飛びつくように、彼女は迎える。

「お忘れして、どういたしましょう――」

と、雪之丞は、媚びて、怨じて、

「お言葉が、うらめしゅうござります――わたくしの胸を、どう思召しておいでやら――」

四

人を交えぬ、二人だけの、離れ家の静寂――絹張り、朱塗りの燭の火が、なつかしく輝く下に、美しい、若い男女は、激しい情熱の瞳を見かわしたまま、いつまでも、手を取り合っていた。