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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
のッぴきならぬお迎いが見えぬうち、わたしは、この屋敷から、屹度屹度、すがたを消して見せまする。そして、しばらくするうちには、慈悲ぶかい父上、かならず御殿を何とかいいこしらえ、晴れて、そなたと共ずみも出来るよういたして下さるに相違ない――のう、雪どの――早う、その日が来ればようござりますなあ」
「ほんに、たった一度でも、そのような日に生きることが出来ませば、はかないこの身、いかなる科に逢おうともくやみませぬ」
雪之丞は、ひたむきに、恋に焦れ、ひとすじに、父親の愛情にすがろうとする、浅はかな女の心根が、不憫にも思われる。
――哀れな女性よ! そなたは、わしの心の中には、いうまでもなく気がつかず、また、あの三斎隠居の、やさしげな顔に、どのような冷たさがかくされているのかも知らぬのだ。あの老人は、なるほど、良いむすめである間は、そなたをいかほども愛くしもうが、一度、心に背き、自分の栄華栄達の道具に使えぬとわかったときには、子にもせよ、娘にもせよ、もはや敵として憎むほかはないであろう――
雪之丞の胸は、暗くなり、気弱ささえ出て来たが、そのとき、廊下で、足音がして、衣ずれが近づいた。