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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

浪路は、うらめしそうに、その方へ目をやると、雪之丞から、やっと離れる。

いつもの老女がはいって来て、

「大分、おはなしが、お持てになりますような――」

と、何もかも、のみ込んだように微笑したが、

「太夫どの、御隠居さま、おたずねをおよろこびなされ、お杯を下さるとのこと――お居間まで、おいでなされませ」

「かたじけのうござりまする」

雪之丞は、浪路の許をはなれる機会を得たのをよろこんだ。

じっと、浪路を見上げて、手を突いて、

「それなれば、御隠居さま、お召しでござりますゆえ、これにてお別れをつかまつりまする」

「それなれば、そなたも気をつけて――」

と、だけ言うのが、浪路には、一ぱいのように見えた。

そして、熱にうるんだような目で、

――今の言葉は、かならずともに、おぼえていてたも。屹度屹度誓いを果そうほどに――

――必ず、その日を、まちまする。

と、いうように、雪之丞も、今一度、浪路と目を見合せた。

居間では、三斎隠居、湯上りの顔を、テカテカさせて、上機嫌だ。

「おお、忘れず、ようこそ娘を見舞うてくれたの。今宵は、めずらしく、客もなく退屈のところ、ゆるゆる相手をしてくれますよう――」