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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

長崎屋の、沈痛な顔いろに、側に寄って行った芸者も、太鼓持も、盃をすすめることも出来なくなったようであった。

「訊きたいこととは? 更まって――そなたと、わしの間で――」

広海屋は、持ち合せた盃を献そうとしたが、長崎屋は、それを、押しのけるようにして、

「いや、まず、お預けにいたそう――実はそこどころではなく、わしの店でも騒いでいるので――」

と、いって、屹ッと、相手をみつめて、

「こんな場所で、どうかと思うが、いそぐゆえ、伺いますが、こなたの上方の持米が船積みされ、今ごろは、もう、伊豆の岬にも、さしかかっているであろう――とのこと、実証でありますかな?」

「おお、おお、そのはなしでしたか!」

と、広海屋はさも、つまらないことのように、軽くうけて、

「いかにも、さるお方のおすすめで、江戸はかように、米穀払底、今にも、米屋こわしでも、はじまるばかりになっている折柄、そういっては何だが、裕福な、物穀商人、さては、扶持取り禄高とりのお武家衆のみが、遊蕩の、遊楽のと、のんきでいるのは、天地に済まないこと――広海屋は、幸い、豊作の上方、西国に、たんまり米を持っているとのことゆえ、この場合、思い切って、持米を東にまわし、損を覚悟で売ったら、江戸の人々への恩返しになろう――第一、その方は、西の果てに生れ、江戸で商人の仲間にはいっ