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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

平馬は、そういいわけじみていったが、これも雪之丞には、奇怪な憎悪を燃やす身、相手が、あの場合の模様で見ると、彼と敵対の地位に立っているとしか思われぬので、この女にここで親しみを結んだなら、何かと役に立つこともあろうと、彼は彼で、考えないわけにいかない。

「それにしても、お女中、そなたも、どこぞ、この辺にお住居か?」

「いいえ、あたくしは、黒門町の方におりますが、今夜は、ちと、人をたずねます用があっての戻りみち――」

「戻りとあらば、もはや、御用ずみでござろうが?」

「は――はい」

お初、そう答える外にない――彼女の此宵の計画は、どんな相手にも、歯から外へは出せないのだ。

「ならば、袖擦り合うも、他生の縁、況して、あれ程の御縁もあること、拙宅へ、ちょいと、お立ち寄り願われないか? 伺いたいこともござるで――」

「と、申して、こんな夜中――」

「いや、お構いさえなくば、拙者の方は、何でもござらぬ。住居と申すも、つい、そこの道場――夜分は、内弟子が一人、老僕一人の、からきし殺風景な男世帯、御遠慮はない」

と、顎で差す、新築――お初は、いなまずに、

「まあ、この御道場がお宅なのでございますか――それならば、この間のお礼も、しみじみと申し上げとうございますから、お供をいたしましょう」